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「スタッフの勝手な近況」から

マンスリー広告批評〈00.9月〉

まだご存じのない方は、当社Webサイト 「プレゼントNOW」の“スタッフの勝手な近況”を見て頂きたい。「毎週更新」と銘打った我がWebサイトの宣言を、唯一守っているセクションである。文 字通 り、当社スタッフによって勝手に綴られた近況(一部、絶対に作り話と分かるエンタテインメントもたまに見られる)のセクションなのだが、私は結構ここでも 気になった広告・PRについての感想を述べている。今月の「マンスリー広告批評」は、最近4ヶ月のそうした感想をひとまとめに加筆修正してお見せしたい。 これを機に、本家の“スタッフの勝手な近況”もどうぞ宜しくお願いします。
(6月16日) 民主党から会社に電話がかかってきた。「住まいは川崎市です」と伝えると、比例区には民主党を、と言う。別 に頼まれなくても与党三党に投票するつもりはないが、森首相の「神の国」発言をはじめ失策続きの自民党に対して、民主党の支持率が一向に上がらないのは明 らかにPR戦略の誤りだと思う。広告代理店はどこがやっているのか。「奪る」なんて有権者を無視したキャッチフレーズを堂々と掲げて、恥ずかしくはないの か。 対して、自由党の「日本一新」はよかった。某紙調査の政党PRのランキングでも圧倒的な支持を集めていた。なぜいいのか。理由は小沢一郎というキャラク ターなしでは成立し得ない広告だからである。だからこそ差別 化されていた。これがもしコピーライターの発案であったら、こうしたコピーこそ賞賛されてしかるべきだと思う。 (6月30日) いまも継続中の「静岡ディスティネーション・キャンペーン」は何だ。写 真さえ入れておけば、あとはコピーライターの安易で身勝手なキャッチフレーズを入れておいていいと言うのか? こんな広告、写 真を入れ替えればどの県でも使えるじゃないか。静岡県出身者として、情けない思いがした。それに引き換え、打合せの帰りに初台の寿司屋で食べた駿河湾直送 の「釜あげしらす丼」はおいしかった。 (7月7日) いまJR各線で露出されている「山形観光フリーきっぷ」のポスターが可愛い。ざる蕎麦の海苔が電車の形に切ってあって「のり放題」のキャッチ。そうした ら、車内の女子高生がそのポスターのことを話してて「部屋に貼りたい」だって。何にしても、広告が日常会話の話題になるのはうれしい。 (7月14日) 「MEISM=自己中心主義」という言葉はなくなったわけではない。それを、こともあろうに、その自己中心主義的な使用法が問題視されている「携帯電話」 のキャッチフレーズのKeyWordに使用する鈍感さ。私の経験で言えば、まずクライアントが真っ先にこうした懸念を抱くはずで、コピーライターはこの種 のワードを提案する際、必ず「MEISM」の説明を補足すべきである。その結果 、最終的に決定されたのなら仕方ないとしか言えない。しかし、私なら絶対に使わない。それにしても、恥の上塗りとしか言えない某誌の代理店担当CDのお言 葉。あのね、「ミー」なんか、「あなたにもミーがあります」なんて言われなくても、抑制するだけで大変な代物なんだよ! かくして、私の「J- PHONE」の「ミーメディアへ」キャンペーンへの落胆は頂点に達したのでした。 (7月21日) 「私たちが、見える時間」。どう考えてもこの、メンソール系のタバコに付けられたキャッチフレーズの意図が分からない。ビジュアルはブランコに乗った女性 2名。この場合、「私たち」がこの2人を指していると取るのが自然だが、ではこの言葉の意味は何なのか? 「私たちが、見える」と言うからには、友人であ れ恋人? であれ、特別 に親しい関係を暗示していると理解すべきだろうが、「私たち」と複数形にする意味はどこにあるのか? コミュニケーションづくりにタバコ? う〜ん、遠 い。自然に考えれば、「(本当の)私たちが見える」、つまりタバコの広告特有の開放感とかリラックスを訴求していると取れるのだが、だとすると「私たち」 という複数形が邪魔なのだ。「本当の私たち」「私たちの明日」「自然な私たち」。「見える」ものをいろいろ考えても、「私たち」と限定した時点で、このプ ランコの2人の特別 な関係がクローズアップされてしまう。「私」なら問題はない。1人の人間の開放感を表現した普通 のタバコの広告だ。しかし「私たち」が「見える」と言うからには、本来は“タバコが、1人ではなく2人にとって特別 なメリットがある”のでなければならない。でなくても、2人で楽しむ新しいタバコの提案でなければならない。そこまで考えても、「私たちが、見える」とい う人間の内面 を描写した表現からは、どうしても“気軽に楽しむ私たちの時間”は伝わってこないのだ。「私たちが、見える」は、やはりこの広告で展開されている2人の女 性の特別 な世界に帰結してしまうのである。「私たち」を一般の女性喫煙者とする考え方もある。しかし、ビジュアルで特別 な関係の2名を出しておいて、一般喫煙者に「私たちのタバコ」という共感を狙うのは無理がある。分からない。あってほしくないのは、1人より2人に、もっ と大勢の女性達に吸ってほしいという安易な考えで、単純に「私」を「私たち」に代えた場合だが、もしそうだとしたらコピーライターを代えた方がいい。 (8月3日) 「顧客満足」という言葉は、いまだにマーケティングの重要テーマらしいが、業界誌を読んでいても、やれ顧客データ管理の徹底だの、あるいは“感動づくり” だの、極めて机上的で理念的な方法が並べられているばかりだ。本当にくだらないと思う。つい最近の出来事だ。鎌倉で取材の仕事があって、JR「大船」駅ビ ル内にある某有名菓子店に入った。取材先へのおみやげを注文し、領収書を頼むと「お名前は?」と例によって、その言葉の響きからして感謝の気持ちが感じら れない質問を浴びせられた。「有限会社プレゼント」というのは、社名としては聞きづらい種類に属する。すると、その店員(主任という肩書きではなかったか と思う)は、無言で目の前にメモ用紙を突きだしたのだ。バンッという音まで立てて。呆れかえった。信じられなかった。その後の「ありがとうございました」 に何の温かみも感じられなかったのは言うまでもない。新宿にある某大手書店のレジ内での私語はいつまでたってもなくならない。スーパーなどで買い物をして 出てくる私に、お礼の言葉をくれる店員は極めて少ない。「お客様への感謝の気持ち」なるスローガンを掲げて客を蔑ろにする店舗を数えあげたらきりがない。 こんな情けないサービス業の広告制作ほど、無意味なものはないであろう。「顧客満足」を企画書に書いたら、まずすべきは、徹底した社員教育であると申し上 げたい。 (8月11日) 世の中は、夏休みモードに突入している。我が社の夏期休暇は5日間。土日をつけると9連休も可能で、スタッフは毎年、その恩恵に浴している。私はという と、14・15日と打合せあり。といっても、来週くらいは早く帰って美味しいビールを飲める日もありそうだ。そういえば、モルツのCMにおける藤島親方の タレントぶりはあっぱれである。ビールの広告って、飲んだ後のタレントの表情とか、商品写 真の水滴とか、あまりの誇張しすぎが目障りで仕方ないが、彼は違った。口の辺りがむずむずしてくる、とってもシズル感のあるCMになっていると思う。 (8月24日) 金利の追い風もあって、昨年から今年にかけてはマンションの分譲広告の仕事が続いた。不動産というと、業界的には辛く厳しく納期が短く修正が多いと相場が 決まっている。コピーに至っては「えぇ〜! 不動産? 俺はやらない」なんて言われるのがオチ。だって、折り込みチラシの大半が「五反田駅徒歩5分」のキャッチフレーズの世界だし、パンフレットにし ても「憧憬の世田谷に住まう」なんてステレオタイプのコピーが続く。「考えなくても書ける」なんてことが、誤解でなく真実だったりもするので、一般 的にコピーの地位は低い。しかし、何てことない言葉なんだけど、いま駅貼をやっている某物件の「都市の懐へ」というヘッドラインはうまいと思う。このくら いコピーライターをやっていると、ヘッドラインを見て考えたコピーかそうでないかは感覚的に分かる(その精度を測るのは困難だが)。これは、もちろんマス 媒体の広告も同様だ。この「都市の懐へ」は、目新しくもないコピーのようだが、なかなか出ない言葉の組合せだし、不動産広告として利便性と住環境の双方を 端的に訴求していてうまい。 不動産と同様に、通販のコピーも業界的には地位が低いが、私は、通 販のコピーこそ、コピーライターの基礎体力をつけるのにもってこいの仕事だと思う。これも「スグレもの」「快適を実現」「多彩 にラインアップ」などのステレオタイプなコピーが多く辟易とするが、当社ではこうした言葉を禁止用語として、「いかに多くの情報を、分かりやすく、限られ た文字数で伝えるか」を目標に流通 系の通販の仕事と取り組んでいる。すべてが商品コピーで、正確な説明力を要する割に字数制限があり、解釈力・文章力ももちろん試される。だから、コピーの 力を鍛えるのには最適なのだ。なんて、このようなことを今日は書いてみた。「都市の懐へ」のコピーの価値が分かるコピーライターは、どのくらいいるのか なぁと想像しながら。 (9月1日) インターネットでチャイルドシートのことを調べていたら、某チャイルドシート・メーカーのバナー広告に「安全は愛のかたち…」というコピーを発見。もしも 日本に、当社Webサイトにある川中の「PRESENT MAGAZINE」のファンの方がいらっしゃれば、もうお分かりだろう。私がいかに「かたち」という日本語の乱用に憤りを感じているか。このコピーは間 違っている。「かたち」とは、端的に言えば「?視覚か触覚で確認できる物の全体?物事の表に表れた様子」のどちらかである。「安全」そのものは、もちろん 目や手で確認できるものではない。表に表れた部分だけ安全なチャイルドシートなどもってのほかだ。このコピーを修正するなら「安全への工夫は愛のかた ち…」「安全への対策は愛のかたち…」など、「安全」に?の意味に近い言葉を持ってくるしかない。しかし、これだけ「かたち」という言葉が安売りされてい る時代に、こともあろうに信頼性が求められるチャイルドシートのコピーに「かたち」を使った時点で、このコピーライターの言語感覚の鈍さは証明されている ようなものだ。 (9月8日) 青山の紀伊国屋で見つけた「じゃり豆」。ひまわり・すいか・かぼちゃの種が、小麦粉・寒梅粉などで香ばしく小さな粒状に仕立てられている。健康志向をくす ぐる素材や、一つひとつ三角のパッケージに包まれた可愛らしさも気に入ったが、何よりもこのネーミングがいい。“じゃり”の由来は、その小粒の形状から来 ているのはもちろんだが、「じゃり豆」という語感になぜかシズル感があってレジ前で衝動買いしてしまった。実際に“砂利”っぽい形もしているのだが、それ が「じゃり」になると印象が変わる。当社がもしネーミングを担当していたら、当然「健康・天然・小粒」などの切り口で考えるが、「じゃり」という言葉が出 たかどうかはもちろん分からない。商品企画・ネーミング・パッケージとも、よく考えられた商品と出会うことができた。

バックナンバー
●クリエイターのコミュニケーション能力(1)
●広告雑感アーカイブ(4)
●広告雑感アーカイブ(3)
●CMへの悲鳴と皮肉
●「手紙」という広告
●政治広告の嘘
●広告雑感アーカイブ(2)
●広告雑感アーカイブ(1)
●「さ、」のリユース
●「スタッフの勝手な近況」から(8)
●「リライト」論
●“広告会社”という言葉への大いなる疑問
●CMキャラクターという架空
●ライターと呼ばないで
●「スタッフの勝手な近況」から(7)
●誰がアメリカの広告戦略を担えるのか
●広告と社会との関係
●こんな言葉を広告で見かけませんか?(2)
●私的「三点リーダ」論。
●店頭には責任を持たなくてよいのか?
●「スタッフの勝手な近況」から(6)
●エーペラ文化
●迷走する「広告の迷走」。
●こんな言葉を広告で見かけませんか?(1)
●「スタッフの勝手な近況」から(5)
●コピーライターという言葉
●イメージへの過信
●「スタッフの勝手な近況」から(4)
●コピーライターの性別
●いいコピーライターになるための50の条件
●「スタッフの勝手な近況」から(3)
●「ソリューション」の憂鬱
●自民党宮城県連のテレビCMへの異議申し立て
●「スタッフの勝手な近況」から(2)
●「現代広告の読み方」
●疑似表現について
●「スタッフの勝手な近況」から
●業界誌の広告観
●既成概念への配慮について
●広告スペースを選ぶ必要はないのか?
●チカラ(力)がただいま流行中
●広告批評の限界について
●“広告英語”の現在
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