「広告の世界でしか通用しない言葉、あるいは言い回しというのが存在する。それらは、時に恥ずかしく、時に曖昧で焦点を意図的にぼかし、当然ながら文章そ のものの価値を貶めている。そうした文章を指摘することは、考えることなしに生み出されるステレオタイプのコピーの安易さを明らかにし、同時に当社自身の 業務への戒めともなろう。」
という文面で第一回目をアップしたのが02年の5月(マンスリー広告批評4月)。今月はそのVol.2をお届けします。皆さんが気づかれた“広告の世界で しか通用しない言葉、あるいは言い回し”がございましたら、メールをお寄せください。匿名でご紹介したいと思っています。
例として掲げた文章中、※印以下で述べているのは、それぞれの言葉に対する当社のスタンスです。使用禁止用語としている言葉以外も極力、安易な使用は避けています。
●お客様の声をカタチに/もう15年も昔、「主婦の声を活かして作りました」という言い回しが流行った時代があった。この手のコピーは既にステレオタイプ で、いかにも広告的で嘘臭い。一度、消費者に感想をアンケートしてもらいたいほどだ。※当社ではメインキャッチには絶対にしない●人と企業を結ぶトータル コミュニケーション/「トータル」の意味を明確化しないまま安易に「トータル」を使ったコピーは水準が低い。※当社では、明らかな根拠がない限りできる限 り使用しない●個性あふれる/何も語ることがない場合にこの表現を使いがちだが「煩雑に使用しなければ」という条件で認めてもいいと思う。※当社では、状 況をよく鑑みたうえで使用する●機能充実/2つや3つの機能でこの表現はないだろう。※当社では安易には使用しないが、たとえばカタログで、詳しく書きき れないほど機能がある場合などこう表してよいと思う●こだわる(こだわりの)/「こだわる」には本来「拘泥する」以外の意味はなかったはずだ。当社は正に その点にこだわる。ではなくて、配慮を忘れない。※当社では、極力「こだわりの味」などの使用は避けている。使えばあまりにステレオタイプの低級な文章に なってしまうから。「○○に妥協しない味」とか言い方はいろいろある●楽しむ/この言葉は既に広告に限らず日常会話に深く入り込み、ステレオタイプで無味 乾燥な日本語を増殖させている。特にスポーツ選手が煩雑に使うのは(それが例え真実の表現だとしても)勝負から逃げているか、あるいは勝負に対しいい加減 な印象を抱く。これは私だけの穿った見方かと思っていたら野球評論家の豊田泰光氏も同様の意見を書かれていてうれしかった。さて、広告においても「楽し む」は大人気だ。しかし、気が付くとこの言葉は「遊ぶ」「味わう」「ひたる」「没頭する」「眺める」「経験する」など多様な日本語表現の代わりに安易に使 用され、そうした豊かな言語表現を風化させている。つまり、広告のコピーにおいても“ステレオタイプで無味乾燥な”表現を助長している罪は深いのである。 ※当社では安易な「楽しむ」の使用を避け、常にそれが適格かどうかの判断の下で使用し、必要であれば上記の語をはじめとする他の表現に置き換えている●快 適な/本当によく使ってしまう言葉だ。しかし、住宅メーカーが住まいのことを言う場合と、例えば文房具の使い勝手を言う場合にどちらも「快適」なる言葉で 済ませてしまうのは広告文の書き手として工夫がなさすぎないか。さらに細かく言えば、住宅メーカーのカタログは様々な場面で「快適」への工夫が凝らされて いるわけだが、そうした快適を場面に応じて別の言葉に置き換え使い分ける時にコピーライターの手腕は発揮されるのである。※当社では「心地よい」「気持ち がいい」「気分がいい」「快い」あるいは「やすらか」「うっとりとする」など、できる限り表現の可能性を広げながら書き分けていくことにしている。
(2002年12月26日)