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店頭には責任を持たなくてよいのか?

マンスリー広告批評〈02.8月〉

オール銀座による、この10月のイベント「銀座アキュイユ」。「アキュイユ=ACCUEILLE」とは「おもてなしする」という意味のフランス語らしい。 もちろんこの言葉に含ませた広告的な意図は十分に分かるが、私には、その広告的な宿命とも言える胡散臭さが看過できなかった。
「昔から銀座が続けてきた、おもてなし。その原点にかえり、お客様を迎える私たち銀座の人間が、おもてなしの極意を探ろうという意気込みでもあります。」 と、銀座公式WEBサイト「銀座コンシェルジュ」にはあるが、「おもてなし」とは、心をこめて応対することだ。ここで、実際に接客する銀座の参加店舗のス タッフの方々のことを想像して頂きたい。大変に失礼ながら私には、そのスタッフの方々全員が「おもてなし」という心を前提とした接客ができるとは思い難 い。日々、いたる所で理不尽な接客に晒されている私は残念だがそう思わざるをえない。銀座というブランドの力を加味してもその認識は変わらない。それほど 日本人の質の低下は深刻だと思っている。だとすれば本来、このイベントが持つ意義は、この機会に銀座ならではの「おもてなし」のコンセプトを論議し、「お もてなし」を課題に研修会を開き、「おもてなし」のノウハウを教えるマニュアルを作成し、真剣に一人ひとりの接客の質を上げる機会を設けることにあると私 は思うが、恐らく(そのように手間ばかりかかってお金にならない施策は)広告代理店が実施するはずがないと推測するのが、悲しいかな広告業界の常識だ。  
しかし、このように店頭と結びついたイベントは本来、「おもてなしをコンセプトにしたイベントを開きました」だけで終わらせるべきではない。つまり、真の 主人公はターゲットである見物客ではなく、その見物客に接客し「おもてなし」された経験を届けるスタッフの方々のはずなのだ。「スマイル月間」を実施して いる店舗でもの凄く暗い表情の店員を見るが如き経験を数多く重ねてきた私は、「おもてなし」を単なる広告上のキーワードで終わらせるような無責任さを、そ ろそろ広告業界は考え直すべきだと考える。「おもてなし」をコンセプトにしたら、広告表現の上だけでなく、実際のお客様との接点=店頭にも責任を持つべき ではないか。
それはつまり、「おもてなし」を完璧に店頭の接客で実現する段取りをしてイベントに臨むか、もしくは銀座が「おもてなし」を真剣に目指している姿を単に広 告の掛け声=キャッチフレーズだけで終わらせるのではなく、現実の取り組み(研修等)として実績で示すか、いずれかを実行することである。  前述のWebサイトでは「決して一年では完成しない、長い修練の機会になるかもしれません。」と、銀座ならではの「おもてなし」の育成を示唆する文章を 載せている。これが、単に年一回のイベントを開催するのみで達成されると考えていたら、あるいは、それで広告的には問題がないと信じているとしたら、私は その“広告的”なる常識を心底嫌悪する。  
5年前に話題になったある外資系自動車メーカーのキャッチフレーズに「礼をつくす会社。礼をつくすクルマ。」というのがあった。私は当時、現Webサイト の前身の当社Webサイトで、キャッチフレーズの店頭での徹底の難しさを訴えた。そして今回の「銀座アキュイユ」への指摘と同様に、「礼をつくすサービ ス」を徹底させる研修の必要を説いた。それを実行したかしなかったかは確認していないが、大上段に構えた思わせぶりのその広告の後、当のメーカーはどこか に消えた。
「礼をつくす」という、最早、日本から消えてしまった精神文化を安易に広告に使用し、あたかもそれが実現されるかのようにアピールした罪は、私は重いと思 う。それがいかに難しいかを、このコピーライターは想像したのだろうか。1本の電話の応対さえおぼつかない現代のOLに「礼をつくす」話し方ができると 思ったのか。それとも「いい言葉が見つかった。クライアントも気に入った」と脳天気に喜んでいたか。しかし一方で、それこそが広告ビジネスの成功であると いう常識がまかり通る現実がある以上、同じ失敗(と言うべきか成功と言うべきか)を広告はこれからも重ねるであろう。「銀座」も同じ運命をたどらないこと を祈る。しかし、そのためには、銀座の街に豪勢な横断幕を掲示するよりも何よりも、手間のかかる「おもてなし接客マニュアル」の作成と、地道な研修会の必 要を主催者に説くことが先決だと私は思う。  
※内容の性格上、ここで取りあげたイベントに関わるツールに「接客マニュアル」の類があるか、あるいはスタッフの研修が行われ予定があるか等を確認するこ とは困難なため、私が予測の下に書いた内容にもし事実と違う点があればご指摘いただきたい。
(2002.10.25)

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