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テレビCMにおける許し難い平板読み

マンスリー広告批評〈09.9月〉

平板読みの不快さについては、当WEBサイトのコラム「日本でまだ誰も言っていないコト」に思いの丈を綴ったが、改めてインターネット検索を行ってみると“平板読み”批判派が多くを占める傾向を知って安堵した。しかし同時になお一層、テレビ各局のアナウンサーたちの無節操な“平板読み病”に腹立たしさと強い疑問を感じた。
平板読みの言語としての欠点は「言葉の音で物事を伝えようとする意識の欠落」という記述や、「平板読み、一本調子読みのことです。ただ文字を音声に変えているだけで、意味内容が音声 にのっかていない読み声です。
という説明など、多くの皆さまが的確に指摘されている。最近、アナウンサーが原稿を読む際、文字を単に音声に変えるだけの一本調子の読み方をした後、慌てて一部のアクセントを言い直すシーンを頻繁に見かける。プロの話者としての意識を放棄したこうしたアナウンサーたちが、愚かにも気づかずに放置され垂れ流されているのが平板読みだ。
私がコラムで取り上げたのはあくまでテレビを通じて発信される平板読みで、その多くはニュースなど生放送におけるアナウンサーの事例だった(しかし事前にチェックできるはずのナレーターの語りにもほぼ100%平板読みが見られる。言葉のプロとしての自覚があるのだろうか)。
そこで、テレビCMである。言うまでもなくこの分野で発信される言葉あるいは発音、言葉の醸し出す雰囲気は広告主のイメージを左右するものである。当然のことながら事前チェックは慎重に行われるはずだが、以下に示す事例の通り、信じられぬ水準の平板読みが放置されている。ただでさえ「コピーライターが日本語をおかしくしている」などという批判がある広告業界で、なぜことさら平板読みを放置するのか。表現上の特別な狙いやCM効果と殆んど関係のない領域でなぜ日本語を蔑ろにするのか、私には理解できない。キャッチフレーズなどで「通常は使わない日本語表現」を使うことはもちろん私にもある。それが“日本語をおかしく”する行為か否かについては本欄の別の機会に譲りたいが、テレビCMの発音にも、例えば方言の活用や舌足らずの女性タレントの言葉など、発音自体が商品やサービスのイメージと連動した重要な要素になっている場合もあろう。つまり発音そのものに演出の狙いがあるケースだ。
しかし、テレビCMのなかで発音された下記の平板読み事例には、そうした戦略的な意味は皆無である。少なくともCM業界の方々の、日本語の発音に対する悲しいほどの鈍感さを証明する事例である。

【テレビCMの平板読み事例】
※とても全て捉えきれず、メモできた事例を更新しております。

〔2023年〕
○「DAZN初(発)」DAZN
〔2022年〕
○「DAZNの空き(秋)」DAZN
○「超歌劇(過激)」大阪王将

〔2021年〕
○「目盛り(メモリ)の未来へようこそ」キオクシア

〔2019年〕
○「すすめ証人(商人)次の世へ。」伊藤忠商事 160年
〇「それを気に(機に)」トランセンド

〔2018年〕
○「私は行きたいように生きよう」ライトオン

〔2017年〕
○「東京FM初(発)」のニューメディア」TOKYO FM+  ※ラジオCM
○「薄い神(髪)をカッコよく」スヴェンソン  ※ラジオCM

〔2016年〕
○「願いを米て(込めて)」デンカ  ※ラジオCM
○「運転手として使える(仕える)」ダンロップ「エナセーブ」
○「業界発(初)」
ファミリーイナダ「ルピナス」

〔2015年〕
○「ハリウッド初(発)」Wen
○「厚い(熱い)重い(思い)」ANAオープンゴルフトーナメント
○「新しくなった雉(生地)を。」ドミノ・ピザ
○「夏の課(蚊)にはキンチョール。」大日本除虫菊
※1つのラジオCMで「課」と「蚊」を両方使用。
○「創業130年を声(超え)。」TISSOT

〔2014年〕
○「ACジャパンは、この活動を紫煙(支援)しています。」ACジャパン

〔2013年〕
○「僕らを厚く(熱く)する」コナミ

〔2012年〕
○「汗や菱(皮脂)に強く」 ドクターシーラボ「BBパーフェクトクリーム エンリッチソフト」

〔2011年〕
○「冷たい水も出る。厚い(熱い)お湯も出る。」 宅配水/クリクラ

〔2010年〕
○「麦のうまさだ!」 アサヒビール/クリアアサヒ ※「う」にアクセントを置いていない。
○「厚い(熱い)ものは冷ましてから」 オリックス生命/がん保険

〔2009年〕
○「いい笑顔はいい葉(歯)から」 ロッテ
○「菱(皮脂)を落として」 花王
○「お客さまの試算(資産)を」 外為ドットコム
○「進化を棘 (遂げ)た模様です」 OBC/奉行シリーズ


※テレビCMの平板読み事例は、今後も気づいた時点で加えていきたいと思っている(できれば商品名も記載しながら)。もしご覧いただいた方のなかでテレビCMの平板読みに気づかれた方は、メールを頂戴できれば掲載させていただきたい。

●〔テレビCMの平板読み事例受付〕tokyo@present-inc.com


平板読みは現代の空気を伝えるか

アクセントの表記法には数タイプあるが、私は今回もそのどれにも該当しない表記を行った。すなわち「実際に発音された違う意味の言葉を記載し、( )内で発音されなかった本来の意味を補足」する方法である。これは前述のコラムも同様だったが、今回、アクセントについて検索する過程で「誰も語らなかったサウンド技術」 内の次の記述を目にした。
「日本語というものはアクセントの位置によって、言葉の意味が変わってしまいます。例えば『むく』という言葉。『む』にアクセントがあれば『無垢』になるし、『く』にアクセントを置くと『向く』になります。」
私のアクセント表記の意図も正にこの説明の通りである。また、一般的なアクセント記号より、正誤を比較した方が平板読みの弊害がよりよく伝わると考える。
さて、私は「表現上の特別な狙いやCM効果と殆んど関係のない領域でなぜ日本語を蔑ろにするのか」と書いたが、テレビCMの現場でかくの如き明白な発音の誤りを見過ごしている現状は、確信犯の可能性も否定できない。つまり「平板読みこそが、現代の空気を伝えている」という認識である。実は、読売テレビ所属アナウンサーの道浦俊彦氏は「道浦俊彦/とっておきの話」  で、テレビ局のディレクターから「片栗粉」を「平板アクセントでお願いします」と指示された経験を語っておられる(事実、関西方面では『片栗粉』を平板読みする方が多いらしい)。また道浦氏は、「NHKの知り合い」という人物の「アクセントの型は、規則ではなく傾向だから、いろいろあっても不思議ではないし、無理に型に押し込めようとするのはどうかと思う。」という意見を紹介している。しかし、平板読みを認めないNHKの見解は私がコラムで紹介した通りだ(だからこそNHKアナのほぼ100%が平板読みで発音する事実に憤りを覚える)。

私には残念ながらCM制作に従事する知人がいない。だから現場の考え方を知る術がないのだが、インターネット上で“平板読み批判派”が大勢を占めるのは事実だ(つまり、平板読みが時代の空気を伝えているかどうかは極めて疑わしい)。もちろんサイレントマジョリティの存在も考えられなくはないが、百歩譲って「いろいろあっても不思議ではない」という立場を認めるとして、不思議はなくても許されない所業はある、言葉を扱う職業として。
例えば、「いい笑顔はいい葉から」だ。
仮に方言に配慮するとしても、日本人全体で物を噛む「歯」を「葉」と発音する割合がいったい何%あるというのか。96年にヒットした歯磨き粉のCMに「芸能人は歯が命」という有名なフレーズがあった。決して「葉が命」なんて発音はしなかった。
ここで紹介した事例は時代の空気とも関係ないし、方言の問題とも違うし、アクセントによって意味の取り違えが生じない「片栗粉」の発音とも別物だ。「葉」と「歯」は、発音によって意味が異なる日本語の代表例のような言葉ではないか(もちろん他の3例も同様である)。
テレビCM制作者の怠慢、あるいはとてつもない鈍感さを感じる。
(2009.9.18)



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